2014年6月27日金曜日

中国における実用新案

Q.中国で事業する場合、特許の他に実用新案も注意した方がよいと聞きました。中国における実用新案の特徴や出願動向等を日本の場合と比較しつつ教えてください。

1.中国における出願動向
(1)2013年の中国における実用新案の出願件数は892,362件であり、そのうち外国人による出願は7,136件です。日本における実用新案の出願件数は7,622件であり、そのうち外国人による出願は1,657件です。ちなみに、2013年の中国における特許の出願件数は約82.5万件あり、日本における特許の出願件数は約32.8万件です。
(2)中国における実用新案の出願件数は、特許の出願件数を超えており、日本における実用新案の出願件数の約125倍にも達しています。にもかかわらず、外国人は実用新案を殆ど利用せず、軽視しているのが実情です。ちなみに、2013年に日本人が中国へ出願した特許件数は約4.1万件ですが、実用新案件数は3,048件です。

2.中国における実用新案
(1)概要
 中国では、技術開発能力が高くない企業が実用新案を多く利用しています。特許と比較すると、実用新案は保護期間が短く(出願日から10年)、実体審査を経ずに登録されるため権利も不安定ですが、早期登録され、権利行使も特許と同様に行うことができます。また、特許と実用新案を同日に出願しておいて、実用新案の権利化後、特許が登録される際に実用新案権を放棄することもなされています。日本の実用新案制度も中国と似ていますが、権利行使の容易性や権利の有効性判断等に関して大きく相違しています。
(2)保護対象
 中国の実用新案の保護対象は、製品の形状、構造又はそれらの組合せについて提案された実用に適した新しい考案(技術方案)です(専利法第2条第2項)。中国の実用新案では、有形的な製品のみを保護対象としているため、方法、無(定)形な物質等は保護対象ではありません。この点は日本の実用新案と同様です。
(3)審査
 中国でも日本と同様に、実用新案は実体審査がなされず、方式審査を経て登録されます(専利法第40条)。但し、中国では、新規性、進歩性、実用性等の実体面を除く形式面について厳格な審査(強化方式審査)がなされています(実施細則第44条第1項第2号)。例えば、保護対象、記載要件等について、特許と同様な審査がなされ、中国では実用新案でも補正指令が出されることも珍しくありません。
(4)権利行使
 中国の専利法は、日本の実用新案法にあるような実用新案技術評価書の提示(第29条の2)や実用新案権者等の責任(第29条の3)に関する規定を設けていません。このため中国では、実用新案権に基づく権利行使も特許権に基づく権利行使と同様に行うことができます。
 なお、実用新案権に基づく侵害訴訟が提起された場合、裁判所は、中国特許庁が関連実用新案権について調査、分析と評価を行った上で作成した実用新案権評価報告の提出を要求することができます(専利法第61条第2項)。但し、この評価報告は裁判所が裁判を中止するか否かを判断する際の根拠として利用されるものに過ぎず、提訴時に必須ではありません。
(5)無効審判
 実用新案の登録公告後、何人も無効審判を請求することができます。無効理由等は特許と基本的に同様ですが、進歩性の判断レベルが実用新案と特許で異なります(審査指南第4部分第6章4)。つまり、実用新案は「既存の技術と比べて、その実用新案が実質的特徴及び進歩を有する」レベルで進歩性が肯定されますが、特許は「既存の技術と比べて、その発明が突出した実質的特徴及び顕著な進歩を有する」レベルでないと進歩性が肯定されません(専利法第22条第3項)。
 このような進歩性の判断レベルの高低は、例えば、既存技術に「技術的示唆」が存在するかを判断する際に、考慮すべき技術分野や技術数の相違として現れています(審査指南第4部第6章4)。
(6)指針
 中国では、実用新案権に基づいて特許権と同様に権利行使できると共に、少なくとも進歩性に基づいて容易に無効にされることはありません。従って、模倣され易い構造的特徴があり、ライフサイクルが短い製品に関する考案については、積極的に実用新案の出願をすることをお勧めします。
 逆に、中国における事業に抵触する他人の実用新案権が存在する場合、権利行使に備えて事前に無効資料(新規性を否定できる程度)を準備しておく必要があります。なお、上述した無効審判は匿名でも請求できます(専利法45条)。

 その他、外国特許制度の詳細および具体的な事案についての判断は、専門家である弁理士等にご相談されることをお勧めします。
以上
(特許業務法人SANSUI国際特許事務所 代表弁理士 森岡 正往)

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